窓辺の白い胡蝶蘭と、お礼状と外した立札

立札をそっと外す日 ― お祝いの胡蝶蘭をいただいたあとの、お礼とお返しの心づもり

玄関のチャイムが鳴って、背の高い箱から白い胡蝶蘭が現れる。
うれしさのすぐあとに「お礼はいつ、どうすれば」と少し慌てた経験はありませんか。
園芸講座で講師をしている森川瑠璃です。
この記事では、お祝いの胡蝶蘭をいただいた側のお礼状の時期、お返しの考え方、立札を外す頃合いを順にお話しします。
先にお伝えすると、いちばん大切なのは品物より、早めにお礼の言葉を届けることです。

胡蝶蘭が届いた日に、まずしておきたいこと

お祝いの胡蝶蘭は、届いた日の過ごし方でその後がずいぶん変わります。
お礼のことを考える前に、花と記録のことを少しだけ。

ラッピングをほどいて、花の居場所を決める

配送用のラッピングは、花を守るためのものです。
長く巻いたままにすると蒸れやすいので、届いた日のうちにほどいてあげてください。

置き場所は、レースのカーテン越しにやわらかな光が入る窓辺が向いています。
三重県の農業改良普及センターが公開しているファレノプシス(胡蝶蘭)の管理方法でも、晩秋から春は暖かい室内の窓辺で10℃以上を保つよう書かれています。
これからの季節は、夜の窓際の冷え込みにだけ気をつけてくださいね。

贈り主と立札の名前を、記録に残しておく

ラッピングをほどいたら、まず立札やカードの写真を一枚撮っておきます。
お祝いがいくつも重なると、どなたから何をいただいたのか、驚くほどすぐに分からなくなるからです。

私は小さなノートに、届いた日、贈り主のお名前、花の色と本数を書き留めています。
お礼状を書くときにも、一年後に近況をお伝えするときにも、このメモが頼りになりました。

届いたことを、その日のうちに伝える

花が無事に届いたかどうかは、贈った側がいちばん気にしていることです。
配送の場合はなおさらで、「ちゃんと届いたかしら」と気をもんでいらっしゃいます。

ですから、お礼状を出す前でかまいません。
電話やメッセージで「いま届きました、とてもきれいです」と一言伝えるだけで、相手はほっとされます。

お礼の気持ちは「早さ」と「言葉」で届ける

品物のお返しをするかどうかで迷う前に、まず言葉のお礼を済ませてしまいましょう。
お祝いへのお礼は、早いほど気持ちがまっすぐに届きます。

電話やメッセージは当日、お礼状は三日以内に

お礼状の時期について、高島屋のギフトコラム「お歳暮のお礼状の書き方は? ビジネス・個人別に例文やマナーを紹介」では、届いた当日か翌日に出すのが理想で、遅くとも3日以内の投函を勧めています。
すぐに書けないときは先に電話かメールでお礼を伝え、1週間以内に書面を送るとよいそうです。
お歳暮についての解説ですが、贈り物をいただいたときの作法として、胡蝶蘭にもそのまま当てはまります。

開店や就任のお祝いは、同じ時期にいくつも届くものです。
一通ずつ丁寧に書こうとして手が止まるくらいなら、短くても早く出すほうを私はおすすめします。

お礼状に書きたい三つのこと

お礼状に長い文章はいりません。
私が受講生の方にお伝えしているのは、次の三つを入れることです。

  • お祝いをいただいたことへのお礼
  • 花がどこで、どんなふうに咲いているか
  • これからのご挨拶と、相手を気づかう一言

文例を一つ置いておきます。

このたびは開店に際し、見事な胡蝶蘭をお贈りいただき、誠にありがとうございました。
白い花がお店の入り口で、毎日お客様をお迎えしてくれています。
いただいたお心に応えられるよう、一つひとつ丁寧に営んでまいります。
朝晩冷え込む季節となりました。どうぞお体を大切になさってください。

二つめの「花の様子」は、型どおりのお礼状ではまず書かれない一文です。
だからこそ、この一文があるだけで、きちんと花を見てくれたことが相手に伝わります。

飾った写真を一枚添えるという方法

親しい方や、普段からメッセージでやり取りしている方には、飾っている様子の写真を送るのも素敵です。
贈った側は、自分の選んだ花がどんな場所に置かれたのかを、実際には見られません。

十年ほど前、園芸講座の節目に受講生の皆さんから大輪の胡蝶蘭をいただいたことがあります。
教室の窓辺に飾った写真を送ったところ、「思っていたより大きく見える」と、皆さんがとても喜んでくださいました。
お礼の言葉より、あの一枚のほうがよほど多くを伝えていたように思います。

お返しは必要?いただいた場面ごとの考え方

胡蝶蘭は高価なお祝いなので、「何かお返しをしなければ」と思う方は多いようです。
ただ、お祝いの種類によっては、品物のお返しが必ずしも求められていません。

開店・開業のお祝いは、お礼状が基本

マネーフォワード クラウドの「開店祝いのお礼状は必要?お返しの書き方マナーとテンプレを紹介」では、開店祝いへの感謝はお披露目会、お礼状、返礼品で伝えるものとして紹介されています。
返礼品を贈る場合は、いただいたお祝いの3分の1から半額程度が目安。
お披露目会に招いた相手には返礼品を送らず、引き出物をお渡しするのが一般的だそうです。

あまり高価な品を返すと、かえって相手に気を使わせてしまいます。
お店の品物や、地元のお菓子など、「これからもよろしくお願いします」が伝わるものを選ぶと角が立ちません。

個人のお祝いは、品物より「その後」の報告を

退職や発表会、誕生日など、個人的なお祝いで胡蝶蘭をいただいた場合はどうでしょう。
私自身は、品物のお返しにこだわるより、お礼の言葉と、その後の花の報告を大事にしています。
花がいくつ咲き残っているか、新しい根が伸びてきたか。
そんな近況を折にふれて伝えると、贈り物がずっと続いている会話のように感じられるからです。

迷ったときの目安

場面ごとの考え方を、私の経験も交えて表にまとめました。
地域や職場の慣習で変わることもあるので、迷ったら周りの方に一度確かめてみてください。

いただいた場面お礼の基本品物を贈るなら
開店・開業・移転のお祝いお礼状をできるだけ早くいただいた額の3分の1〜半額程度、表書きは「内祝」
目上の方からの個人的なお祝いお礼状と、近況の報告「お返し」ではなく「お礼」として控えめに
友人・家族からのお祝い電話や写真付きのメッセージ食事に誘う、次のお祝いで返すなど気軽に

立札をそっと外す日

お祝いの胡蝶蘭には、たいてい贈り主のお名前が入った立札が添えられています。
この立札をいつ外せばいいのか、実は講座でもよく尋ねられます。

立札は「誰から届いたか」を伝えるためのもの

立札の役目は、どなたからのお祝いなのかを、訪れた人に示すことです。
開店祝いの花がお店の入り口に並ぶのも、贈り主との関係を周りに伝える意味があります。

ですから、贈り主ご本人やお客様が見に来られる時期に、立札が外れているのは少し寂しいもの。
とくに開店直後は、立札をつけたまま飾っておくのが礼儀にかなっています。

外す目安は、お祝いの空気が落ち着いたころ

立札を外す日に、決まった規則はありません。
私がお伝えしている目安は、お祝いで訪れる方がひと段落したころです。
開店祝いなら、オープンから一、二週間ほどで来店のご挨拶が落ち着いてきます。

自宅で個人のお祝いとして楽しんでいる場合は、もっと早くてもかまいません。
文字の書かれた札と支柱は、花の繊細な姿とはどうしても馴染みにくいもの。
外してあげると、胡蝶蘭が急に「わが家の花」の顔になるのが不思議です。

外した立札の、私なりのしまい方

外した立札は、すぐに捨てずに写真に残してから処分しています。
贈り主のお名前とお祝いの言葉は、あとから見返すとその時期の記憶ごとよみがえるものです。

カード式のものは、お礼状の控えと一緒にノートへ貼っておくこともあります。
小さな記録ですが、翌年の同じ季節に近況をお伝えするときのきっかけになります。

花が終わったあとも、贈り主との縁は続く

お祝いの胡蝶蘭は、上手に管理すると一か月から三か月ほど咲いてくれます。
最後の花が落ちたあとも、株は生きています。

二番花をねらう花茎の切り方

先ほどの三重県の管理方法では、花が残り2〜3輪になったら花茎を根元から切らず、下から2〜3節を残して切ると二番花が楽しめると紹介されています。
節は、花茎にある小さな膨らみのような部分です。
大輪の三本立ちなら、一本ずつ様子を見ながら切ってあげてください。

二番花が咲いたら、ぜひ贈り主に写真を送ってみてください。
「まだ咲いているの」と驚かれて、そこから思いがけず話が弾んだことが、私には何度もあります。

いただいてみて分かった、贈る側のマナーの意味

胡蝶蘭をいただく側になると、贈る側のマナーがなぜあるのかが、身にしみて分かります。
開店当日の慌ただしい時間に届くと、置き場所を決める余裕もありません。
立札の名前が一文字でも違っていると、お礼状の宛名で手が止まります。
どれも、受け取る人の手間と気持ちを考えた決まりごとなのですね。

いつか自分が贈る側に回ったときのために、フラワースミス・ギフトさんのコラム「お祝いに贈る胡蝶蘭のマナー完全ガイド!シーンや関係性に合わせた選び方」に一度目を通しておくと安心です。
花色や本数の選び方から、立札の文言、届け日、避けたいNGマナーまでが一つにまとまっています。
受け取る側の経験があるからこそ、一つひとつの項目に「なるほど」とうなずけるはずです。

まとめ

お祝いの胡蝶蘭をいただいたら、届いた日のうちに一言お礼を伝え、お礼状は三日以内を目安に出しましょう。
開店祝いのお返しは、いただいた額の3分の1から半額程度が目安ですが、まずは言葉のお礼が先です。
立札は、お祝いの訪問が落ち着いたころに、写真に残してからそっと外してあげてください。

わが家の窓辺でも、いただいた胡蝶蘭が二番花のつぼみをふくらませています。
花が咲いたら、贈ってくださった方にまた一枚写真を送るつもりです。
あなたのもとに届いた一鉢も、どうか長くかわいがってあげてくださいね。